5時間睡眠を続けるとどうなる?ショートスリーパーの特徴や適切な睡眠時間について解説
現代社会において、忙しい毎日を送る中で「もっと時間があれば」と感じることは少なくありません。そんな中、5時間という短い睡眠時間で活動している人や、意図的に睡眠時間を削ろうと考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、5時間睡眠を継続することは本当に健康的なのでしょうか?また、世の中には「ショートスリーパー」と呼ばれる、短時間睡眠でも問題なく生活できる人たちが存在しますが、彼らにはどのような特徴があるのでしょうか?
この記事では、5時間睡眠が身体と心に与える影響について科学的な観点から詳しく解説し、真のショートスリーパーの特徴や見分け方、そして私たちにとって本当に適切な睡眠時間について探っていきます。睡眠の質を向上させ、健康的な生活を送るための参考にしていただければと思います。
5時間睡眠を続けると睡眠負債が溜まる

5時間睡眠を継続することは、多くの人にとって慢性的な睡眠不足状態を意味し、この不足分が日々積み重なることで「睡眠負債」と呼ばれる状態を引き起こします。睡眠負債とは、スタンフォード大学の睡眠医学研究者ウィリアム・デメント先生によって提唱された概念で、長期間の睡眠不足が借金のように蓄積され、健康状態を悪化させる状態のことです。成人には7時間以上の睡眠が推奨されているため、5時間睡眠では毎日2時間以上の睡眠が不足し、この負債が徐々に蓄積されていきます。
睡眠負債が溜まると、日中の眠気、記憶力の低下、注意力散漫、うつ症状やイライラ感といった心身の不調が現れます。さらに深刻なのは、自律神経や代謝機能にも悪影響を与え、高血圧、糖尿病、肥満症などの発症リスクを高めることです。

また、睡眠不足は肥満に関係するホルモン調節にも影響を与え、食欲や摂食行動の変化も引き起こします。この負債は週末の寝だめだけでは完全に解消することができず、毎日適切な睡眠時間を確保することが必要となります。
ショートスリーパーの特徴

ショートスリーパーとは、「短い睡眠時間でも健康を保っていられる体質の人」を指します。一般的に、毎晩平均6時間未満の睡眠でも、日中に眠気や集中力の低下といった健康上の問題がないことが定義とされています。
遺伝的・体質的な要素が強い
ショートスリーパーは生まれつきの体質であり、その特性は遺伝的・体質的な要素によって強く決定されています。カリフォルニア大学の研究グループは、ショートスリーパーの家族を対象とした遺伝子解析により、DEC2、ADRB1、NPSR1、GRM1という4つの遺伝子で、自然な短時間睡眠に関する変異を特定しました。特にADRB1遺伝子の変異をもつ人は、10万人に約4人という非常に稀な割合でしか存在しません。
これらの遺伝子変異により、ショートスリーパーの脳では深い睡眠状態であるノンレム睡眠から一気に覚醒することができ、覚醒状態を促進するニューロンの数が普通の人よりも格段に多いことが分かっています。真のショートスリーパーは人口の1%以下という極めて少ない割合で、その発生頻度は遺伝子配列によって決まるとされています。
重要なのは、これらの遺伝子変異は生まれつきのものであり、後天的に手に入れることはできないという点です。そのため、遺伝的素養を持たない人が努力や訓練によってショートスリーパーになろうとすることは、健康を害するリスクが高く非常に危険な行為と考えられています。
短時間睡眠でも日中のパフォーマンスが高い
ショートスリーパーのとくに顕著な特徴は、6時間未満という短い睡眠時間にもかかわらず、日中のパフォーマンスが一般的な人と同等かそれ以上に保たれることです。目覚まし時計に頼らず自然にすっきりと目覚め、寝起きにボーッとすることも日中に眠気を感じることもありません。通常の人が睡眠不足になると現れる集中力の低下や注意散漫といった症状が全く見られず、むしろより楽観的でエネルギッシュ、マルチタスクに向いている傾向があり、痛みに強く時差ボケにもあまり影響されないという特性を示します。
この高いパフォーマンスの維持は、レム睡眠が圧倒的に少なく、ノンレム睡眠の時間はほとんど一般的な人と差がないという独特な睡眠構造によるものです。そのため、短時間でも質の高い深い睡眠を効率よく取ることができ、脳と身体の回復が十分に行われます。5時間以下の睡眠が何日続いても昼間に眠気がくるなどの自覚症状がなく、健康上も特に問題がないことが真のショートスリーパーの証拠といえるでしょう。
睡眠時間が健康に影響しない
一般的に睡眠不足は高血圧、糖尿病、肥満症といった生活習慣病のリスクを高め、免疫力の低下や認知機能の悪化を引き起こすことが知られていますが、真のショートスリーパーにはこのような健康への悪影響が見られないことが大きな特徴です。ショートスリーパーの特異な遺伝子をもつ人たちには、6時間未満の睡眠不足による有害性は当てはまらないとされており、短時間睡眠による健康被害から免れています。
睡眠障害の国際基準でもショートスリーパーは「正常範囲内だが異型(標準から大きく外れている)」な睡眠パターンとして分類されており、「疾患」ではなく「異型」と表現されるのは、短時間睡眠によって健康上の問題が生じないためです。
毎日その短い睡眠時間で自然に目が覚め、日中のパフォーマンスだけでなく、心身の健康への影響がないという体質こそが、真のショートスリーパーと一般的な睡眠不足者との決定的な違いといえます。これは生まれつきの遺伝的特性によるもので、そのような体質に生まれついているからこそ健康を維持できるのです。
睡眠負債を抱える「自称ショートスリーパー」に注意

現代社会では「5時間睡眠でも平気」と自称する人が多く存在しますが、その大部分は実際には睡眠負債を抱えている偽のショートスリーパーです。遺伝子配列に基づいた真のショートスリーパーの発生率が極めて低いのに対し、「私はショートスリーパーである」と自称する人は少なくなく、大きな乖離があるのが現実です。人は自身の不調に気づけぬまま、次第に短時間睡眠に慣れていき、客観的にはパフォーマンスが低下しているにもかかわらず、本人は短時間睡眠でも問題なく活動できていると感じている状態に陥りがちです。
真のショートスリーパーは幼少期や青年期も同様に短時間睡眠で問題なく過ごしており、「ショートスリーパーになりたい、なろう」と考えた時点で、短時間睡眠で問題なく生活できる可能性は極めて低いとされています。自称ショートスリーパーの多くは、実際には休日の寝だめや午前中の眠気、パフォーマンスの低下といった睡眠負債の症状を抱えており、健康リスクを無自覚のまま蓄積させている危険な状態にあります。

自身が睡眠負債を抱えているかどうか、下記のチェックリストと照らし合わせてみましょう。
【睡眠負債のチェックリスト】
- 目覚ましがなければ起きられない
- 週末に長時間寝てしまう
- 日中、集中力が続かず眠気を感じる
- 些細なことでイライラする
適切な睡眠時間はどのくらい?

適切な睡眠時間は年代や個人によって異なりますが、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、以下の時間が目安として示されています。
世代別の推奨睡眠時間
適切な睡眠時間を考える際には、年齢による生理的変化を理解することが重要です。夜間に実際に眠ることのできる時間は、加齢により徐々に短くなることが脳波研究で明らかになっており、15歳前後では約8時間、25歳で約7時間、45歳では約6.5時間、65歳では約6時間というように、成人後は20年ごとに30分程度の割合で睡眠時間が減少します。この変化は自然な老化現象であり、高齢者が若い頃と同じ睡眠時間を無理に確保しようとする必要はありません。
一方で、床上時間(ベッドで過ごす時間)は睡眠時間とは逆の傾向を示します。20~30歳代では7時間程度ですが、45歳以上では徐々に増加し、75歳では7.5時間を超える傾向があります。この結果、若い世代は床上時間の不足により睡眠不足になりやすく、高齢世代では必要な睡眠時間に比べて床上時間が過剰になりやすいという問題が生じます。
時間よりも大切なのは睡眠の質
睡眠において重要なのは単純な時間の長さではなく、質の高さです。睡眠の質の良し悪しは、深く眠れたという感覚「熟睡感」を得られたかどうかで見極めることができます。たとえ推奨時間の範囲内で睡眠を取っていても、夜中に何度も目が覚めたり、浅い眠りが続いたりすると、十分な回復が得られず睡眠負債が蓄積してしまいます。
質の高い睡眠には、深いノンレム睡眠とレム睡眠のバランスが重要で、これらがしっかりと確保されることで脳と身体の疲労回復、記憶の定着、免疫機能の維持が行われます。睡眠時間を長く確保するだけでなく、規則正しい生活リズム、適切な睡眠環境の整備、ストレス管理などを通じて睡眠の質を向上させることが、真の健康維持につながるのです。
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5時間睡眠を続けることは、大多数の人にとって健康リスクを高める危険な行為であり、真のショートスリーパーは遺伝的な特性を持つ極めて稀な存在です。自分がショートスリーパーだと思い込んでいる多くの人は、実際には睡眠負債を抱えている可能性があります。適切な睡眠時間の確保と質の向上こそが、健康で充実した毎日を送るための基盤となります。
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